切り捨てたこと〜平成２７年度のセンター試験｢理科」見直し2

　前回の記事*1で，センター試験の理科の「基礎」科目の選択において1教科のみの選択をなくしたのは
　　　「文部科学省が「１５年度試験の理科は、さらに受験生の選択肢が多く、時間割が格段に複雑になる」との懸念をセンターに伝え、見直しを指示していた。」
　　　「センターは基礎科目を１科目選ぶ選択肢について、「利用する大学が少なく、影響が小さい」と判断。」
　　　　　　（2012年7月18日 読売新聞）
とされています。これを見ると
　　　基礎1教科のみの選択は，単に，入試科目を設定する際の選択肢を増やすという大学側へのサービスだった
ともとれそうです。「利用する大学が少な」そうだし，運用上のリスクもあるのにそこまでサービスすることないよね，って感じで2教科のみに統一したということ。
これだと，大学入試センターは非難される理由はなさそうに見えます。というか，そう見て欲しくてわざわざ2つ目の理由をコメントしたのではないかとも考えてしまいます。2つ目の理由は公式発表*2には出てこないんですよね。

　基礎1教科のみの選択を可能にしていた（変更前）もともとの理由は，変更前の発表によると*3

（前略）「物理基礎」，「化学基礎」，「生物基礎」及び「地学基礎」の４科目を出題する。この際，高等学校で「科学と人間生活」及び「基礎を付した科目」１科目を履修する者がいることを踏まえ，大学入試セン
ターから提供される成績を活用することにより，大学入試センター試験に参加する大学は，「基礎を付した科目」１科目だけを指定することも可能とすることとする。

だそうです。この部分は今回の変更ではバッサリとカットされました。この部分をカットした，つまり，“高等学校で「科学と人間生活」及び「基礎を付した科目」１科目を履修する者”に対する配慮をやめたことについては，プレス発表資料を含めても一言もありません。このような教育課程での履修というのが，いつのまにか“なかったこと”になっている。今回の文書では変更箇所の対照表を見ればカットしたことはわかりますが，次の発表（正式発表）ではそれもなくなるでしょうからカットしたことすら見えなくなります。

　前回の記事では「案」まで出しましたが，私は別に，高等学校で「科学と人間生活」及び「基礎を付した科目」１科目を履修する者に対する配慮がないのはケシカランと思っているわけではありません。
センター試験に対して
　　　(A)「多様な入試選抜の実施に資するものにする」「高等学校の多様な教育課程に十分配慮する」（複雑化は避けられない）
　　　(B)「運用面でのリスクを避けるためにシンプルな形にすること」
という矛盾した要求がある以上，どちらかが不十分になるのは避けられません。切り捨てなければならない部分が出てくるわけです。今回の変更は(B)を優先させたため(A)が不十分になった形ですが，(A)が不十分になったことを隠すような，切り捨てた部分に対して鈍感であるような発表の仕方はずるいと感じてしまいます。

　目標が達成され，みんなの人が納得する（不満のない）形を目指すことは大切ですが，目標や満足の形が多様になれば，限られた時間や費用の中で「目標のすべてが達成されてみんなが納得する」なんてことは不可能です。みんなが不満がない（＝みんなから非難されない）ことばかり考えるといつまでも結論が出なかったり，目的がぼやけたものになったりするでしょう。何らかの結論を出そうとすれば，目標等に優先順位をつけ，あるものは切り捨てるしかありませんが，「何のために何を切り捨てたか」ということは忘れないようにすることが大切なんじゃないかと思います。切り捨てたものへの責任や痛みから逃れるために「なかったこと」「気づかなかったフリ」をするのではなく。

　センター試験の話に戻ります。
昨年度までは(B)がはっきりと要求されることはなく，(A)の求めに応えるように（あるいは「応えられていない」という批判を避けるように）どんどん複雑化してきました。今回の変更は，これまでの様々な配慮を踏襲する形で(A)をみたし続けることが現実的でないということを大学入試センターが認めたともいえます。センター試験の目的を問い直すときにきているのかもしれません。

*1:2012/7/26「平成２７年度のセンター試験｢理科」見直し1」

*2:平成24年7月24日　プレス発表資料「平成27年度大学入試センター試験からの理科の出題方法等の一部変更について」，「平成2 1 年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入試センター試験の数学，理科の出題科目等について」

*3:平成23年4月1日「平成2 1 年告示高等学校学習指導要領に対応した大学入試センター試験の数学，理科の出題科目等について」