No Haste, No Chains ~数学の教育をつくろう~

※はてなダイアリーから移行しました

平成27年度のセンター試験「理科」見直し1

高校における新学習指導要領の完全実施は来年度の入学生からですが,数学と理科に関しては今年度から先行実施されている関係で大学入試についても平成27年度(今の高1が現役で大学受験する年)からいろいろと変わることになっています。

センター試験の出題方法等については昨年*1「一定の結論」が発表されていたのですが,その内容に変更があることが発表されました。変更点は理科の「基礎」科目(「物理基礎」「化学基礎」「生物基礎」「地学基礎」)の扱いについてで,次のような内容。

 15年度試験の理科では、四つの選択方法が公表されており、基礎科目のみで受験する場合は「物理基礎」「化学基礎」など4科目から「2科目または1科目を選択する」とされている。

 ところが、今年の地理歴史・公民の試験でミスが起きたため、文部科学省が「15年度試験の理科は、さらに受験生の選択肢が多く、時間割が格段に複雑になる」との懸念をセンターに伝え、見直しを指示していた。

 センターは基礎科目を1科目選ぶ選択肢について、「利用する大学が少なく、影響が小さい」と判断。1科目だけの選択をなくし、2科目を必須とすることにした。近く最終決定する。
   (「センター試験「理科」見直し」(2012年7月18日 読売新聞)より)

正確には*2こんな形。

1 理科の「基礎を付した科目」の選択及び解答方法
理科の「基礎を付した科目」は,試験時間60 分で「物理基礎」,「化学基礎」,「生物基礎」及び「地学基礎」の4科目のうちから,受験者に対し,2科目を選択解答させることとする。
(中略)
2 大学における理科の「基礎を付した科目」の指定方法
理科の「基礎を付した科目」は,大学の科目指定においても1科目のみの指定はできないこととする。

昨年の内容のとおりだと,「基礎」4科目,「基礎」なし4科目のそれぞれに1科目選択と2科目選択があって,「今年以上に複雑になりそうなのに,どう実施するんだろう」と思っていたのですが,複雑さが少しだけ回避されました。少しだけですが…。
一定時間に2科目解かせる形は,共通一次で5教科7科目(1000点満点)だったときの理科や社会の扱いと同じですね。

今年のセンター試験の状況を見ると変更前の方法では不安や混乱が生じるのは十分に予想できます。
  1. リスク(周知徹底の難しさ,試験当日の現場や受験生の負担…etc)を承知し,変更せずに運用の方法を工夫する。
  2. 運用しやすいよう,何らかの変更をする。
のどちらかになりますが,「失敗」した場合の影響の大きさを考えると大学入試センターが「2.」を選んだのは賢明だと思います。

しかし,「よかった」という人ばかりではなさそうです。

 ただ、センター側の昨年の発表を受けて、基礎科目で1科目のみを必履修とするカリキュラムを編成した学校が専門高校を中心に全高校の約1割あるという。変更の打診を受けた高校関係者からは「変更は認められない」との反発もある。
   (同じくセンター試験「理科」見直し(2012年7月18日 読売新聞)より)

昨年も今年も発表は「最終決定」の形ではないですし,実施まで2年半もあるので*3「変更すること」自体は問題ないと思いますが,センター試験の科目設定の考え方やこれまでの運用を考えると,今回発表された変更内容は少し問題があるかもしれません。

「基礎科目で1科目のみを必履修とするカリキュラム」というのは,理科で「科学と人間生活」及び「基礎を付した科目」1科目を履修する場合ですね。「科学と人間生活」はセンター試験の科目にないので,必修科目のみではセンターの理科はカバーできない(高校で履修してなくても受験は可能ですが)ということになります。センター試験は「高等学校の多様な教育課程に十分配慮」することになっており,例えば数学でも「数学I,数学A」だけでなく必修科目である「数学I」単独の科目が設定されています。「数学I」では受験できない大学・学部も多いですが必修科目のみしか学習していない人にも数学を受験科目に含む大学への出願の可能性を残す形になっているわけですが,理科に関しては配慮が不十分な形になるわけです。基礎1科目で受験できる大学がどれだけあるか不明なので実際の出願への影響は不明ですが。

「基礎科目で1科目のみを必履修とするカリキュラム」の人にも配慮するような,さらなる変更を考えてみました。
  案1. 「科学と人間生活」もセンター試験の科目に含め,基礎4科目と「科学と人間生活」の5科目から2科目を選択するようにする
    (「科学と人間生活」ではちょっと…という大学は基礎4科目から2科目選ぶように指定する)

  案2.試験の実施は今回の変更のままで,基礎1科目のみの指定もOKにする。
    (2科目受験した場合は指定した科目か高得点の科目を使う。2科目用の時間で1科目しか解答しなくてもOKとする)

「案1.」は「科学と人間生活」を科目からはずした理由を考えると難しいかもしれませんね。出題の手間や費用もかかるし。
「案2.」はセンターの国語(現国,古文,漢文から出題)で少し見られる,現国の点だけを使う場合と同じようなイメージです。理科でも同じようなことができるんじゃないかな。「基礎」2科目分の時間で1科目を解くなんてずるい!と思う人もいそうですが,国語だって現国しか要らない人は「国語」の時間全部を現国に使うこともできるわけだし。記事にあるように「利用する大学は少ない」のなら,これでもいいのでは?


最終決定までに議論が尽くされ,受験生や実施の現場に混乱や不安が生じない,よい結論が出ることを願います。

*1:平成23年4月1日付け

*2:大学入試センターの発表「平成27 年度大学入試センター試験からの理科の出題方法等の一部変更について」(平成24年7月24日)とそれについての発表資料。大学入試センターのページにpdfがあります

*3:共通一次のときなんて「前年の社会の選択科目のうち「倫理・社会」「政治・経済」の平均点が他の科目より高かったため、この2科目の同時選択を禁止」(2年目の1980年)なんてこともあったようです…。