No Haste, No Chains ~数学の教育をつくろう~

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苦しい答え〜大学生数学基本調査3

いろいろ何だかなぁ…の点もある大学生数学基本調査ですが,誤答例も含んだ詳しい報告書を出してくれているのはありがたいです。
円周率の日(3月14日)の天声人語にも載っていました。

たとえば<偶数と奇数を足すと奇数になるのはなぜか>。中2で勉強したはずが,まあまあ論理的に説明できたのは34%だった。「思いつく偶数と奇数を足したらすべて奇数になった」など,苦しい答えが目立つ。<二次関数の放物線の特徴を述べよ>では,「曲がった感じのやつ」という感想のような答案もあった。

日本数学会の分類では「重篤な誤答」の1つです。偶数と奇数の問題の「典型的な誤答」には「小学校の説明活動のように,文字を用いず碁石などを用いて直感的に説明する」などもありますが,この調査は調査の前にこんな説明があるんですよね。

みなさんの回答は,すべて統計的な分析を経て用いられますので,個人の回答内容が知られる心配はありません。この調査の結果が,授業の成績に影響することもありませんので,安心して取り組んでください。
(中略)
この調査は試験ではありませんので,得点を取ろうとする必要はありません。なるべく解答欄を埋めるように,自分の考えを記入してみてください。

つまり,「よくわからないから・自信がないから恥ずかしいといって白紙にしたりしないで,自由に書いてね」という優しい言葉がかけられています。拙い説明も苦し紛れの回答も大歓迎ともとれるスタンスなのに「ダメなやつ」みたいな書かれ方はなんだか少しかわいそうです。

放物線の問題では「重篤な誤答」とは「採点者がかなり想像力を働かせても,回答が何を意図しているかを理解が困難な,論理的なコミュニケーションが崩壊している誤答」だそうですが,その例を見ると

  • 「原点は−の位置にある」「原点がy軸より右」「原点が上」

   …「頂点」という用語が思い出せず「原点」と表現したのかも。
    最初の誤答はそれプラス頂点のy座標の計算ミス(符号ミス)があったのかも。

  • 「2本できる」「反比例している」

   …直線じゃないってことはわかったんだな。
    直線じゃないグラフとして双曲線や反比例のグラフは思い出したんだな。
なんて私なら考えます。
線分を3等分する作図問題では

「学生の多くが,作図という言葉を「垂直二等分線を書くこと」と短絡的に結びつける傾向がある。 二等分線をいくら書いても三等分にはならないにもかかわらず,四等分線あるいは3/8等分線を「三等分である」と強弁する答案が続出。

とあります。この問題の正解率は非常に低いのですが,どうにかしようと考えたとき垂直2等分線を思い出した,つまり垂直2等分線の書き方は記憶にしっかり残っているということがわかります。「二等分線をいくら書いても三等分にはならない」なんて知らないでしょうし。

「成績に影響しない」「得点を取ろうとする必要はない」とあるので,白紙やふざけた回答が多くなることも予想されましたが,そのような答案は無視できるほど少なかったそうです。
突然提示された問題に対し,覚えていることや身についている手法を手がかりにしてなんとか答えに近づこうとする素直で真面目な学生像が見えてきます。

天声人語は「数学嫌いの皆さん。(中略) 仲直りに遅すぎることはない。」と結ばれています。
仲直りも何も,数学が嫌いの人が避けているだけで,「数学」の方は嫌ってなんかいないんじゃないかな。

   誰でも,いつからでも,今よりもっと仲良くなれる

それが数学だと思います。