No Haste, No Chains ~数学の教育をつくろう~

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小中学校で学力不足を理由とした留年?

大阪の橋下市長が義務教育での留年検討を要請したそうです。*1
小中学生でも目標の学力レベルに達していない場合「留年」の検討を要請したとのこと。

これに対し、大阪市の矢野教育委員長は、「フランスでは小学校で留年する制度を取り入れてきたが、子どもにとっては逆効果で、学力への意欲をそいでしまった。学力に課題のある子どもには個別に対応して、学力を上げるようにしている」と否定的な意見を述べました。

留年というのが日本よりずっと身近らしいフランスでさえ,小学校での留年は逆効果ということですから,日本では言わずもがなという感じがします。
フランスでの「個別に対応して学力を上げる(おそらく,クラスはそのまま)」という取り組みを肯定的に紹介している教育委員会長に対し,橋下市長は

こうした意見を受けて、橋下市長は「学年を落とすのが難しいなら、学力の追いついていない子どもを一定期間集めて、特別学級を設け、集中的に指導するとか、学校ごとに習熟度別の指導を行ってもらいたい」と述べ、まずは習熟度別の指導などの対策を取ったうえで、将来的には留年も含めて検討するよう、教育委員に求めました

と,あくまでも「別にする」ことが最良と考えているようにとれます。
「特別学級」が夏休みなどの学級活動が休みの間に設けられるのなら別ですが,そうでなければ,クラスの結びつきが強い日本では別にされた子が疎外感をもつのではないかと心配です。

橋下市長は「分かるまで教える」と言っていますが,「留年」発言を見る限り,それはどうも「分かるまで先に進ませない」ということとセットになっているようです。そのもとには,すべての学習内容(教科ごとでもいいですが)の学習段階が1列に並んでおり
   AがわかればBがわかる,BがわかればCがわかる,Cがわかれば…
となっていて
   Aが十分理解できていなければCはわかるはずはない,したがってCを勉強するのは無意味
   Aの段階でつまずいた子がCやDの段階で追いつくわけがない
という意識があるのではないかと感じます。

しかし,小学校ぐらいだと結構,“急にわかるようになる” “一気に追いつく” ことってあるんじゃないでしょうか。
そのきっかけは,「頑張って勉強した」だけでなく,「他の子の勉強のようすを見てるうちになんとなくできるようになった」だったり,Cを勉強することがAの理解を助けていることもあるでしょう(本人は意識していないことも多いでしょうが)。年齢が低いほど「学習の仕方を学習」している面があり,学習・理解の進み方は単純ではないんじゃないかと思うのです。


それにしても,橋下市長はどうしてこうもペナルティ(と感じる人も多い内容)ばかりを前面に押し出すんでしょうね…。

※ 最後のほうを少し修正しました(2012/02/23 13:15)

*1:引用は「橋下市長“義務教育の留年検討を”」http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120223/t10013220391000.html より