No Haste, No Chains ~数学の教育をつくろう~

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およそ3〜はじめての円周率

今日(7月22日)は円周率近似値の日。
ということで,円周率の歌をどうぞ。⇒円周率の唄〜3.14完全復活を祝して〜


上の歌にも出てきますが,円周率といえば,前回の学習指導要領の改訂*1のとき,「円周率が3になる(3.14は教えなくなる)!」というデマが大きく広まりました。

実際は,円周率の扱いについては改訂前と同じで,変わったのは小数計算についてや電卓の扱いだったんですけどね*2
「円周率3.14」が関係しなければこんなに大騒ぎになることはなかったはず。日本中の人が「円周率3.14」にすごく愛着を持ってるんだなあ。


“2002年度からの教育課程はダメなものだ”というイメージを強く植えつけた「円周率3」ですが,当時の私は
  円周率のことを最初に習うときは「およそ3」だったはず(学年が進んで「3.14」を習う)。そんなに「(およそ)3」を毛嫌いしなくても…。どうしてそのことが話題にならないんだろう。
ということも思っていました。

そのことをふと思い出して調べてみました。

(正確な図形としての)「円」について初めて習ったのは3年生のとき。教科書(S49年度用3年上・啓林館)には,円,半径,直径についての説明とともに

 円のまわりは 直径のおよそ3ばいです。

とあります。円周率という用語こそ出てきませんが,円周率がおよそ3であることが書いてあります*3

  ほーら,やっぱり!

続いて最近の教科書も調べてみたら…
  ありませんでした…。
3年(または4年)の段階では,円周(円のまわりの長さ)については触れていません。

2002(H14)年の改訂のときも,その前(1992(H4)年施行)も,「(およそ)3」は5年のとき「3.14」とほぼ同時に出てくるんだ…というか,3.14より後に出てる!

「円周率はふつう3.14を使います」という記述の後にいくつかの問題があり,その後の問題で
  「円周率を約3として計算してみましょう。」(学校図書・H13年度用5年下)
  「円周率として3を使うこともあります。(中略)円周率を3として調べてみましょう。」(H14年度用,啓林館5年下)
という形で「(およそ)3」が出てくるのです。


いつの間に・・・と思って学習指導要領*4を見てみると,私のとき(S46年施行)にも3年では円周についての記述はなくて再びビックリ。
その前の課程では3年のところにあるんですが*5

  どうして私の時代の3年の教科書には「およそ3」があったんだろう
  指導要領の本文にはなくても「解説」にはあったのか。
  それとも教科書会社の判断なのか。だとしても文部省が認めたのは“あえて”か,それとも単に規定を厳密に取らなかっただけなのか。

私の課程の次の課程(1980(S55)年度〜)についてはよくわかりませんが,学習指導要領にはありませんし,教科書にもなさそうです(3年,5年とも。3年の教科書は大日本図書のものの目次(S55年・大日本図書*6)からの推測ですが)。
Wikipedia「円周率は3」によると,円の円周や面積の求め方についての導入学習で「およそ3」を使う先生はいたようです。*7


新学習指導要領(小学校2011年実施,現行課程)では「目的に応じて3」もなくなり,「円周率はおよそ3」は指導要領からも教科書からもなくなりました。
このことは「脱ゆとり教育」の象徴的なものとしてとらえられているそうです*8

円周率を「およそ3」とする処理を(初めて)学習する時期は
   小学3年→…→小学5年→削除
と変わっていったことになります(3年生では「円周率」の用語はないですが)。


  「円周率はおよそ3」があった理由は何だったんだろう?


「目的に応じて3」があった理由は,文部省(2002年度の改訂のとき)によると

なお、学習指導要領では、以前から、「目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する」と記述しています。これは、例えば、円の面積の見積りをする場合などに、およその面積を素早く見積もることができるなど、目的に応じて適切に処理できるようにするためのものです。

だそうです*9Wikipedia「円周率は3」を見ると,92年実施の改訂で「目的に応じて3」が加わった背景を「小数点以下2桁の演算の負担を考慮して」で,「暫定的なもの」とみています。
「素早く見積もる」ことと,「負担軽減」ですね。


それも1つの理由だと思いますが,それでは,昔(S45以前)は3年生の指導内容だったことや,その後,指導要領からなくなったのに教科書(3年生)には残ったことの理由にはならないような・・・。


  円周の長さは,直径のおよそ3倍

私がこのことを習ったのは3年の1学期。まだ小数も分数も習っておらず,0,1,2,3,…といった本当に身近な数(0以上の整数)の足し算と引き算,簡単な掛け算と割り算(九九とその逆)くらいしか知らないころです。複雑な数字と格闘するなんてことはなく,「素早く見積もる」や「負担軽減」を考える必要もないころ。
「必要な値を求めるため」というよりも,「図形量についての感覚」を養う意味があったんじゃないかと思います。「3.14倍」では感覚から少し遠ざかる。


もしかしたら,いったん教科書からもなくなった(たぶん)「およそ3」が,指導要領に(5年生にだけど)復活した(92年)のも,図形量についての感覚が失われることに対する危惧がどこかにあったのかものかもしれません。
そう思うと「およそ3」が完全に消えたのは,少し残念な感じもします。

*1:小学校では2002年度から施行

*2:Wikipedia「円周率は3」などに詳しく載っています

*3:同じ教育課程(S46(1971年)施行のいわゆる「現代化カリキュラム」)のときの大阪書籍(S54年度用)にもありました。大日本図書(S46発行)でも「直径と円しゅう長さ」の項目があるので,おそらくあるでしょう。

*4:学習指導要領データベースで見られます。

*5:昭和33年10月施行(教科については36年度から?)の学習指導要領に「イ 円について,半径と直径の関係,周の長さは直径のおよそ3倍であることなどを知ること。」とあります。

*6:大日本図書・教科書いまむかしより

*7:「ところがこの規定を厳密に取ると、円の円周や面積の求め方についての導入学習(ある単元の最初期に手始めとして行う学習)において、およその数としての円周や円の面積を求めるのに「円周率を(暫定的に)3で計算」するという教え方をした場合に学習指導要領を逸脱しているとされるおそれがあった。このため1989年の学習指導要領の改訂時(小学校では1992年度実施)に「目的に応じて3を用いて処理」という記述が加えられ、1998年の改訂時(小学校では2002年度実施)にもこの記述は引き継がれた、」

*8:Wikipedia「円周率は3」

*9:「「円周率は3」で教えていると聞きましたが、本当ですか。」